“バカ映画の巨匠”と“マージービートの妖精”の出会い。河崎実監督が、それいゆ主演の短編映画『永遠のルンナ』について語る

“バカ映画の巨匠”と“マージービートの妖精”が出会って生まれたジュブナイルSF短編映画。それが『永遠のルンナ』だ。監督は『日本以外全部沈没』『いかレスラー』など数々の作品でズンドコ映画界に燦然と光り輝く河崎実、主演は3人組バンドSOLEIL(ソレイユ)のリード・ヴォーカルを務めるそれいゆ。昨年夏に完成し、秋にパトロン限定上映会が行なわれ、パトロンになる機会を逸していたファンを悔しがらせていた同作が3月29日、遂にDVD化された。

この作品に魅了された原田和典とMASATO(娯楽映画や幕末を研究するかたわら、打田十紀夫の許でフィンガーピッキング・ギターを探求)はユニット“倶知安ドッグス”を結成、さっそく河崎監督にインタビューを敢行した。偶然にも全員が生年の違うイヌ年で一人っ子。さっそく濃厚なトークが始まった。

—- 『永遠のルンナ』は、歌手としてのそれいゆさんしか知らないファンに衝撃を与えると思います。彼女を起用して映像作品を作ったきっかけを教えてください。

河崎実 1年以上前かな、YouTubeで「Pinky Fluffy」を見て、やられましたね。♪“教えてほしいの”“女の子なんてつまんない”って。シルヴィ・バルタンとかね、フレンチ・ポップスの世界観を今、美少女でやるというセンスが最高じゃないですか。メンバーのサリー久保田さんも中森泰弘さんも俺と同い年ぐらい、ほぼ60歳でしょう。ビートルズとフレンチ・ポップスの要素のある音楽を、孫みたいな美少女に歌わせるのがすごい。それで(プロデューサーの)サリーさんに連絡をとったんです。「ぜひ、それいゆちゃんを撮りたい」と。2枚目(セカンド・アルバム『SOLEIL is Alright』)を出す前に撮影しました。だから全部1枚目(ファースト・アルバム『My Name is SOLEIL』)の曲です。

—- 結果として、それいゆさんの14歳を記録した映像になりました。彼女はこの7月に16歳を迎えます。

河崎 (『永遠のルンナ』は)タイムカプセルみたいなものだから。こないだ(3月30日にShibuya WWW で開催されたワンマン「Hello, Again SOLEIL」に)来たファンも全員買ってるはずだよね。この年齢の時期はもう来ないんだから。

—- エヴァンゲリオンに乗れるのは14歳のセカンドチルドレンだけ。それに通じる14歳独特の何かが・・・

河崎 その意味では14歳を封じ込めた作品だよね。最初はそれいゆちゃんに『地球防衛少女イコちゃん』のリメイクをやってもらおうと思ったんです。『~イコちゃん』(1987年)は僕のデビュー作で、30年たった今も売れてる。全力で命を懸けた作品はやっぱり評価が違うのかな。『地球防衛少女イコちゃん2 ルンナの秘密』(1988年)に出てくる白馬ルンナ役の田山真美子ちゃんも当時は14歳だった。この年齢ってアイドルにとって重要だと思うんですよ。僕は真正ロリコンじゃないけどね(笑)。だから14歳の美少女の新たな決定版みたいなものを新たな『イコちゃん』で行きたかったんですけど、それいゆちゃんには演技の経験がないし、クラウドファンディングで集まった予算も150万。

—- 当時それいゆさんに注目していた人はある意味、先見の明の持ち主ばかり。いまほど知名度がなかった時期ですから。作品の登場人物は3人で、本編は24分です。

河崎 ほとんどPVだからね。歌の流れてないところは5分ぐらいなんじゃないかな。しかもアフレコだしね。でも「今しかない、夏に撮るしかないんだ」って思って2日間で撮った。彼女のキャラクターって、おしゃれな感じでしょ? 今回はゆるいギャグは入れずにマジでやって、最後にオチがある構成にせざるを得なかった。ロケも楽しかったけど、ヒルに噛まれてね(笑)。『ウルトラセブン』の、ベル星人が出てくる「空間X脱出」っていう回で(1968年)、アマギ隊員が空間Xにいたら上からいろんな虫が落ちてきて、それを手で叩いたら血でグワッとなる、あんな感じですよ。足を噛まれちゃって、バーッと血が出て。でも大したことないんだってね、ヒルに噛まれても。それいゆちゃんが噛まれなくて良かったよ。

—- そしてストーリー中のそれいゆさんは、アンドロイドだったという。

河崎 美少年の市川りおくんもそれいゆちゃんと同じで、演技の経験がなかった。そこでふたりともアンドロイドという設定にして、だから棒読みでいいんだということにして。手塚眞が出てたでしょ? あのストーリーは『鉄腕アトム』からも来てるんですよ。

—- 手塚眞さんは映像の分野で幅広く活躍なさっています。お父さんは『アトム』の原作者、漫画家の手塚治虫さん。

河崎 天馬博士が自分の息子が交通事故で死んで、息子そっくりのアトムをつくったんだけど成長しないんで「出てけ」と言って、アトムが出ていく。悲しい話なんですよ。ちょうどこの映画の撮影の頃、スタッフが急死したりしてね、「命ってなんなんだ?」って柄にもなく真剣に思った。美少女や美少年の時代が一瞬なんだってことをアンドロイドを通じてちょっと入れたかったんですよ。最後、研究所を脱走して・・・。『地下鉄のザジ』ってフランス映画があるでしょ、ルイ・マル監督の傑作が(1960年)。おこがましいけど、そんな感じにできないかなと思ったんです。

—- 楽曲は「魔法を信じる?」、「MARINE I LOVE YOU」、「さよなら14歳」、「恋するギター」が使われています。

河崎 メイン(のMV)はサリー久保田さんがしっかり制作しているから、それじゃこっちの解釈でやろうと。曲も俺の好みで選ばせてもらってね。あの子たち(主役の2人)は死んじゃってるわけですから、交通事故で。それを博士が甦らせたという設定で、それいゆちゃんは脱走して思い出の別荘でたたずんでるみたいな、ある意味短編SFというか。昔『タイム・トラベラー』というドラマがNHKであったんですよ(1972年放送)。僕はそれをリアルタイムで見ていて、原田知世で映画になった大林宜彦監督の『時をかける少女』も、その10年ぐらい前に『タイム・トラベラー』でドラマになってた。ジュブナイルなんですよ、少年少女しか出てこない。僕は怪獣が一切出ないSF作品も好きだったので。手塚眞も小中和哉もジュブナイル映画を作ってたよね。ただ俺の場合はちょっとズンドコな作風だけど。できないと思いつつ、さわりだけ(ジュブナイルを)やってみたんですよ。お金ないからこれが限界です、24分しかないから。

—- それいゆさんを往年の映画女優にたとえたら、誰でしょう?

河崎 高橋紀子かな。

—- 『ブラボー!若大将』(1970年)で若大将を振っちゃう社長令嬢。『ウルトラQ』の「南海の怒り」(1966年)には原住民役で出てました。

河崎 寺田農の奥さん。髪型も似てるからね。でも『永遠のルンナ』や『地球防衛少女イコちゃん2 ルンナの秘密』の“ルンナ”は、内藤洋子の「白馬のルンナ」(1967年)から来てる。あの歌も好きだったし、内藤洋子も大好きだったからね。麻丘めぐみ、南沙織、岡田奈々、木之内みどり・・・。あのへんのアイドルも素晴らしかった。やっぱロングの髪の美少女という系譜だよね。『地球防衛少女イコちゃん2 ルンナの秘密』(1988年)の撮影の時、増田未亜はロングじゃなかったんで、わざわざウィッグをつけてもらったから。最初のイコちゃんの磯崎亜紀子はロングだった。黒髪の美少女は好みだね。好みじゃないと映画は撮れないから。

—- しかも『地球防衛少女イコちゃん』には『ウルトラセブン』のキリヤマ隊長(中山昭二)、『地球防衛少女イコちゃん3 大江戸大作戦』(1990年)には土屋嘉男のようなレジェンドも出ています。

河崎 それが俺の最初のスタイルだから。美少女、オヤジ、古いギャグ、そして怪獣(笑)。今回も、最初はその原点に戻ろうと思っていたんだけど。

—- 監督は若大将オマージュの映画『イキナリ若大将』を自主制作なさっていますが(1985年)、『永遠のルンナ』に出てくる芝生でたわむれているシーンは、ひょっとして『俺の空だぜ!若大将』(1970年)の・・・・

河崎 「人知れず」、あの感じなんだよ! 小谷承靖監督のね。僕の映画には東宝映画の要素も入ってるんですよ。引用で映画って作られるものなんで、その知識が多いほど文句言わせないというか深みが増すというか。

—-  『イキナリ若大将』のヒロイン・星山澄子役は、当時、聖心女子大生だった岡村美奈さん。黒髪ロングです。

河崎 別につきあってないですよ。

—- そのパンフレットに掲載されていた岡村さんのコメントが、「若大将シリーズの事はほとんどわかりませんけれど、稀に見る異常な雰囲気の楽しい作品に出演させていただいて、大変貴重な体験でした」。いいこと言いますねえ。
河崎 そんなこと言うわけないじゃん、俺が勝手に書いたんだよ!

—- 『永遠のルンナ』の続編が次々と制作されることがあれば、そのうち南郷勇一(河崎監督の俳優名)とそれいゆさんの年齢を超えた恋のシーンがあっても面白いかなと思います。

河崎 俺が?(苦笑) だけど、そういうシチュエーションは本当の若大将で考えたんだよ。今の加山雄三で若大将シリーズをやるの。70代になってから生涯教育で大学に入ってくる。それでAKBとかと合コンで盛り上がったりスキーをしたりする。70代の加山雄三が躍動するわけよ。19歳ぐらいのAKBに大学で「若大将!」って声をかけられて。

—- (笑)

河崎 「どうすか?」って東宝の偉い人に提案したら、「ダメだ、ダメに決まってんだろ!!」って言われてさ。

—- それは、しょげちゃいますね。

河崎 狂った企画はなかなか通らないんですよ。若大将というブランドが東宝のものだからさ。たとえばウルトラという言葉には著作権がないけど、そこにマンとかQとかつくと円谷プロのものになるとかね。だけどもう50年経ってるからパブリック・ドメインなんだよ、本当は作っていいんだ。俺は『ウルトラエース』を作りたいがね。昭和天皇崩御の日に『電エース』を作ったから、『令和電エース』も作るけどね。今は吉田照美さん主演の『ロバマン』を作っていて、昨日は伊東四朗さんと笑福亭鶴光さんが出るシーンを撮ったんだ。

—- これもクラウドファンディングですか?

河崎 そう。『ロバマン』は450万円。姫乃たまの『干支天使チアラット外伝『シャノワールの復讐』』は250万円だったけどね。

—- 「うまい棒のようだ」と形容された、あのすさまじい演技のやつですね。

河崎 あれはミュージカル的な要素も取り入れたくて、町あかりに唐突に出てきて歌ってもらったりした。最近、突然歌い出す映画ってなかなかないでしょ。

—- ジャガー(千葉を代表するロックンローラー。ジャガー星から来た)や康芳夫(国際暗黒プロデューサー)の起用も最高でした。

河崎 ジャガーは『地球防衛少女イコちゃん3 大江戸大作戦』以来、29年ぶりの登場です。時空を超えてますよ(笑)。今はとにかく『ロバマン』を成功させたいですね。『ロバマン』のクラウドファンディングは終了しましたが、今後の作品の一部もそのやり方で作っていきます。1口3000円からで、3000円から作品のDVDが(リターンとして)ついてきます。俺のクラウドファンディングはけっこう集まりますよ。

河崎監督から直に作品制作の舞台裏をききたい、若大将シリーズや円谷プロについて熱く語りたいという方には、中野のイベントスペース「ルナベース」が“聖地”になることだろう。監督はだいたい金曜日の20時ごろからいる予定だが、「ルナベース」のHPにスケジュールがあるのでチェックしてから行くように。また、3月20日には初めての書きおろし本(いままでは聞き書き形式だった)『バカ映画一直線!: 河崎実監督のすばらしき世界』が徳間書店から出版された。文字通り、河崎ワールドに迫るには最高の一冊だ。

(取材・文:倶知安ドッグス)

『永遠のルンナ』

収録内容 本編24分+特典映像14分
CAST それいゆ(SOLEIL) 市川りお 手塚眞

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監督・脚本・プロデューサー 河崎実  脚本 木川明彦
音楽 CD『My Name Is Soleil』より
Licensed by VictorEntertainment

撮影 佐々木雅史 松尾誠 川﨑雄太 技術 水島英樹 音声 武藤隆
編集・CG・効果 川崎雄太 ヘアメイク 田部井美穂 スチール 瀧川寛
バッグ製作 谷川理砂 製作助手 河﨑智子
協力・ジャケットデザイン  サリー久保田
協力 川口法博(ビクターエンタテインメント)
製作 有限会社リバートップ

https://www.amazon.co.jp/dp/B07MQGGKNQ/ref=cm_sw_r_tw_dp_U_x_wrRTCbTA9K3JD


■「ルナベース」公式サイト http://luna-base.net/

電線を愛してやまない女優・石山蓮華プロデュース作品 日本初!?全国の電線マニアに捧げるDVDが遂にリリース!!

インターネット放送局STOLABO TOKYOの人気番組『電線礼讃』より生まれた石山蓮華プロデュースによる全編撮り下ろしの映像作品!
「探そう」「話そう」「学ぼう」「繋がろう」をテーマに、石山蓮華が様々な企画にチャレンジ!電線を頚椎から出すという長年の夢を遂に実現!?
興奮、絶叫、個性的な語録で電線を愛でる今まで見たことがない石山蓮華の姿を多数収録したファン待望の作品が3月6日(水)にDVDで発売することが決定した。

■石山蓮華プロフィール
日本テレビ系「ZIP!」レギュラー出演中!
【映画】 2014年「思い出のマーニー」 エミリ役
【テレビ】 2017年「ナカイの窓」
【ラジオ】 2018年「アフター6ジャンクション」
http://artist.amuse.co.jp/artist/ishiyama_renge/

■STOLABO TOKYOとは…様々なライブストリーミング番組を配信するインターネット放送局で個性豊かな俳優・ミュージシャン達による、ここでしか見られないオリジナル番組やイベント映像などを配信しています。
■石山蓮華の『電線礼讃』 https://stolabo-tokyo.com/group/2382

【収録内容(予定)】
◎探そう
下高井戸、原宿・表参道、そして蒲田と、昔ながらの電線が残る街から地中化が進む現代の街の裏側に残る電線を探し、ぶらりと散歩。面白い電線、新たな発見をし、お気に入りの電線の愛で方を紹介!
◎話そう
石山蓮華が熱望した『シン・ゴジラ』の監督・特技監督である樋口真嗣監督と電線について対談が実現!電線に対して深い見識と愛を持つ監督から特撮黎明期の話など貴重なエピソードも収録!
◎学ぼう
古河電気工業株式会社、理研電線株式会社の全面協力を得て、工場敷地内ロケを実施!
電線愛好家の石山蓮華にとって、悶絶する電線のオンパレード!質問に次ぐ質問の嵐に、職員の方もタジタジに!?
◎繋がろう
電線を頚椎から出すという長年の夢を石山蓮華が遂に実現!!
バンタンデザイン研究所との打ち合わせから完成までの過程をオフショットも含めて完全公開!

【商品仕様(予定)】
■セルDVD 本編DVD1枚 3,800円(税別) ASBY-6142 POS: 4943566311219
2019年 日本作品 発売元・販売元:アミューズソフト ※商品仕様は予告なく変更する場合がございます。
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